Q-Mex〜Around The World〜


『プロローグ』


静静雪が降る町に
静静雪が降る街を
ゆたりゆたりと歩いてく


黒手袋のぽわぽわを
白粉雪のぽわぽわが
まだらにまだらに染めていく


冷たくなったドアノブを
きっかり冷えたドアノブを
ゆっくりゆっくり開いていくと


そこは華やかな舞踏会
女は男の手を取って
男は女の手を取って


同心円上の輪舞曲
回る回るくるくる
くるくる回る回る


招かれたドレスと私
ここでは世界が交差して
私の世界も交差する


『チャイナタウン』


空港を抜け出て
大通りを避けて歩くと
そこは神秘の空間


香料かぐわしの町にて
一時の惑いと
一時の恍惚の交差


屋台では包丁が踊る
売り手の威勢のいい
競りの声


遊郭では睦事
子供は目を塞いで
耳も塞いで


芸者に一つ
コインを渡さないか
旅立つ前の選別に


『Rainbow』


虹は無邪気なおもちゃ箱
子供が掬って放り投げ
中からおもちゃが溢れ出す


ぴこぴこ動く猿の腕
ぴこぴこ動くうさの耳
ぴこぴこ動くしっぽ達


目移りしているうちに
いつの間にやら夢の住人
雲の上でかぷかぷ遊ぶよ


色とりどりの飴玉が
七つ並んで空に描いた虹
手を伸ばして掴んでみた


小さな人形達が
喜劇を踊って喜んでるよ
思わず手叩き喜んだ


目覚ましの音が辺りに響く
もうお別れの時間だね
子供はさよなら手を振った


「バイバイ」



『映画「SICILLIANA」のテーマ』


波は寄せては返す
返す波に想いを重ねて
在りし日に焦がれ、涙


涙にはまだ早い
日の向こう
穏やかなる海原の先を見つめる


風車小屋の老人は語る
海の向こう
そこに知らない街はあると


ある日去った母
故も告げず
行き先も告げぬままに


少年の耳に残るものは
寄せては返す、波の音


――少年もまた
行き先を告げず旅立った

そこに飾られた写真には
笑顔を浮かべた親子の姿が――


出港のベルが響く
閑な海辺が遠のいていく


見送りの少女は
涙を流しながら
大きく手を振っていた


『Smoky Town』


船の上の小さな舞踏会
ほら、貴方も御一緒に


テーブルの上にキャンドル
色とりどりの豪華なビッフェ


お手付きは後で
今は流れに身を任せて


コントラバス
野太い響きに心は弾む


白黒の鍵盤の上で
軽やかに弾む指に合わせて


アルトサキソフォンと一緒に
5と6の間で揺らぎましょう
つかの間の旅の休息に


ナタラディーン


光の失せたインド
光に奪われた活気が
ここでは静かに響きわたる


大地に薫る香辛
群がる先は屋内
誘われた蛾は店先に留まる


馴れぬ辛さに口を焼き
ココナツミルクを口に
まろみが運ぶ刹那の安らぎ


月はラクシュミ
ガネーシャの知恵を拝借
ガンジスに一人沐浴


くねる裸体に
艶めかしさを感じる
月照らすインドの夜


『Blessing』


雪に沈む街
街灯は家灯は
柔らかく綿を染めていく


カンテラの炎
揺らぎ無く
辺りを照らし


曇り窓に映る
カラフルな巨大靴下
詰まっているのは、まだ夢だけ


お休みなさい
街の明かりが消え
日が辺りを照らすまで


『宇宙船Q-Mex』


無言で登る山
光が入らない森を
ただひたすら登る


汗を幾度拭った頃に
一筋差した光
破顔


希望と不安の
入り混じる掌は
塞ぐ木を押し退ける


目を焼いた輝き
薄れ気付く
この場所は、聖地だと


眼前には遺跡
石には紋様
芸術かはたまた呪具か


神に敬意を払い
身を潜らせ
中を探る


求めるものは財宝?
それとも浪漫?
もしかすると両方?


遺跡を出た僕等は
世界を改めて見回す
草そよぐ世界を


無知故に知りたいと願うから
全てでなくてもいい
なるべく多くを知りたいから


『インタールード』


次はどの街に行こうか?
カタログ片手に行き先定め
思いは益々膨らむばかり


『cat's Scat』


派手なネオンに
描かれるPlease come in
ここはブロードウェイ


娯楽は尽きず
飽きた頃には形を変える
時の進みがここでは別


コミカルなミュージカルの後には
バニー達の華麗なラインダンス


鼻の下伸ばしたら駄目
蹴り上げられるからね
隣で見てる
さみしがりやのうさちゃんに


『陽気なあなた』


さぁ、次の街に行こう
チケットは持ったね?
忘れ物、思い残しはない?
よかった。じゃあ、出発だ


僕らを乗せて
汽車は次の街まで


『My Love』


河底に映る月は
想いをそのまま映すもの
愛しい人よ
私の側にいてね


心の景色は
そのまま瞳の中へ
そしてそのまま現実へと


『Get on that train』


街の片隅
盛んな賭場で
軽い気分でミニ・ダーツ


トリプルスコアをつけつつ
ムーンシャインを一杯
禁酒法などとうの昔


スペードのジャック一枚
狙うはスペードのエース
たまにはこんな無茶してみたり


ブタ札を取り替え
ロイヤルストレートフラッシュ
たまには強運を使ってみたり


ドル札は必要かい?
このクルーズにいる間は
紙切れに過ぎないけどね


チップは必要かい?
このクルーズが終れば
ただの記念コインだけどね


『ダイバーダウン』


インドネシア
香料を求め人が往来した街


店のあちらこちらから響くガムラン
路上での木琴演奏パフォーマンス


海の隣で鳴る
テクノビート


シンガポール
遥か高みを目指す街


時代は未来へと進む
それは止められない


ならば過去を残そうか
記録として
記憶として


『Citta del sole


赫が似合う街
男は一人黄昏る


雨上がり
艶やかに咲く花のように
立ち並ぶのは建物


バンドネオン
街角のジプシーが
哀愁を奏で


振り向きざまに
コインを一枚


シガレットをふかし
煙の行く末を目で追う
街の象徴たる塔を


太陽を目指した男が落ちた地
そびえ建つは彼の墓標か


劇場は今日も
激情に満ちた音が響く
男は夢持つ人に囁きかける


焦がれるは人の運命
ならば、焦がれのままに生きるがいい
身が焼け落ちても、その火は残るのだから


『僕らは完璧さ』


いつか見た
懐かしさを覚えた
そんな風景


初めて見た
ドキドキを覚えた
そんな風景


いくつもの風景が
電車の音で浮かんでくる


電車の音は
来てはまた
通り過ぎていく


行った場所から
行ったことのない場所
そもそも知らない場所へと


降りた駅
それが僕らの出発駅


まだまだ旅は続くけど
旅の終りなど無いけれど
ここでの旅はこれでおしまい


また会える日まで
どうかこの気持を忘れずに
それでは


また、いつか