spiral galaxy -L.E.D. Style Spreading Particle Beam MIX-が出来るまで-Phase 7-


愉快だった。
面白かった。
高揚感があった。


まさか奴も――俺と同じ体質だったとはな!


「へっ……そうかい!」
奴も気付いたのだろう。今目にしている相手が、己と同類であることを。そして、真の汗で彩られる宴の準備が、たった今整ったという事も――!


「だりゃあああああああっ!」
「うぉぉぉおおおおおおっ!」


二人の獅子の影が、交錯した。


―――――――――――


蠍火は一瞬、対象を見失った。
センサー感知も出来ないレベルで、文字通り『MISSING!』したのだ。
なのに生命反応はある。そんな異様な状況に、一瞬戸惑った偽蠍火は――。


次の瞬間、顎を強烈に撃ち抜かれ、空を舞った。


――――――――――――


「だりゃああっ!」
「ふぁっ!しっ!しゃあっ!」
……流石、最強と言われるだけある!ここまで正確に攻撃を当てるとは――!
俺の能力――それは速度倍加と気配収斂。
突然消え、知らぬ間に近づき、一撃をお見舞いする。視界や気配探知の能力を一瞬無効化でき、その後もアドバンテージを取り続けることの出来る能力。ただし、それは中盤以降でないと働かないが。
通常なら、ここで大方の奴は落ちるのだが――この男は、その気配すら読み取っているのか、正確に俺の拳に合わせて攻撃を当ててくる!
「へっ!中々やるじゃねぇかっ!おらよぉっ!」
目に見えないスピードで迫る、大量の拳。最早突き出しているのか引いているのかすらわからないほどの超高速で繰り出される連打を、俺は紙一重で避けていた。
正直、これは捌ききれない。一発でも食らえば、後は引きずり込まれるままに打ち付けられてKOは確定だろう。だからこそ、俺は――、


「ファァイッっ!」


高速移動を応用した乱打戦に持ち込んだ!
ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!
拳と拳がぶつかり合い、打撃音のスコールが辺りに降り注ぐ!
右右左左左下右上上右右……。
攻撃パターンも有ったもんじゃない。
「――」
「――!――」
「――!」
客席の声など、最早ノイズでしかない。
「――!」
「――!」
俺達自身が何を叫んでいるか、それすら自分で理解できない。
ただ――この瞬間は、生涯で忘れる事はないだろう。


速度で押す俺と、
破壊力で押すバザーク。


その拳が――!


ズ     ド     ガ     ァ     ッ     !


互いに交差した次の瞬間、俺の意識は光に包まれた――。


―――――――――――――


――あの時と同じ技を、俺は今、偽蠍火に対して使っている。ただし、宙に浮かして、だが。
自分の拳の残像で、相手の姿は見えないが、手に感じる打撃の感触が、相手の存在を確固としている。
徐々に天に昇っていく俺と偽蠍火。このくらいなら標的が見えるだろうか。
「――見えた!」
地上に映る、黒い円柱状の建物。間違いない。あれが兵器製造プラントだ。黒光りするだけの、武骨としか形容し様がないフォルム。出入り口は一つのように見えて無数にある。この全ての出口から兵器が出撃すれば――終わる。
だからこそ――!


「ウォォォォォォォォァァァァァアアアアアアアァアアッ!」


拳にありったけの力を込め、超高速で叩き付けた。


空気抵抗など関係しないかのように、叩き付けられた力と重力加速度を受け、偽蠍火は一気に落下していく。その落下地点は――!?


――ドガァドッガァァァァンッ!


兵器プラントの天井をぶち破り、階層を貫いて一階に、さらに下にある動力のためのオイル貯蔵庫にまで一気に落下した偽蠍火は、自身の能力である炎が辺りに引火して、結果――兵器プラントもろとも吹っ飛んだ。
「……ふぅ」
ゆっくりと地上に降り立った俺は、あの日の戦いを思い返していた……。


――――――――――――


「……ははっ、まさかオメェに倒されるとはな」
「こっちも……倒せるとは思わなかった。だが――」


「DKOだ」


俺が気付いたとき、両方ともリングの上で寝転がっていた。金網の外では金網に掴みかかる人、乱闘を起こす人、心配そうに俺達を見つめる人など様々だった。
バザークは、体力が一足先に回復したらしく、寝転んだままの俺に手を差し伸べた。
「ま、約束は約束だ。1000万GPを受け取りに、お前んとこに行ってやらぁ」
そう告げるバザークの顔は、やはりどこか闘気のようなものが感じられた。きっとこの男は、わくわくしているのだろう。新たなる強者との戦いを――。
「……あぁ。だが、勝負を挑む前に、ちゃんと果たし状とセコンドは用意してもらうからな」
そう言うと俺は――、


奴の手を、握りしめた。


――本拠地 by spiral galaxy――


「……予想通りじゃねぇか」
まっさかここまでオレの勘が的中するとはなぁ。AI、性能悪いんじゃね?
ま、目的を考えりゃ、これほど頼もしい門番、ってのも中々いねえんだが。


目の前にいる、黒髪で、黒ずくめのローブを羽織った少女。この世界ではあまりにも有名すぎる、『最強』が冠された曲――冥だ。


「……」
本来の白や銀、青といった色からは程遠い、彩度がゼロな偽物の冥は、それが当然であるかのように兄である筈のオレに凍てつく刃を向けてきやがる。宙に浮いた氷柱は、明らかに対象を突き刺すためのもの――。
「……プログラム、ON」
感情の欠片もねぇ奴に話すこともねぇ。オレは、こいつのために用意してきたプログラムを早々に起動させることにした。
逃げ場を無くすように、いつの間にかオレと偽冥の周囲を取り囲むように、氷の壁が生成されていた。恐らく、確実に葬るためだろーが……、はん。
まずはオレの肩を裂くような軌道で奴は氷柱を飛ばす。オレはそれを特製のプログラムリボルバーで撃ち抜いていく。プログラムの発動は――最初の一瞬の静寂。ここまでを耐えきれれば――。
「……」
互いに無言のまま、手元の弾をぶつけていく。氷の破片が、オレの服を幽かに切り裂き、その断面をさらに他の破片が切りつけていく……。だが、俺も流石に難易度11だ。この程度の発狂、耐えられないほど柔じゃねぇよ。
パリィン!パリィパリィパリィン!
ガラスを砕くような澄んだ音が響いて、氷柱が次々に壊れていく。そろそろ発動か……。


『Ready!』


リボルバーのメーターが『Infinite』と表示された。それが――オレの勝利の合図だ。


「!?」
偽冥は困惑した。突如として現れた相手からの攻撃を、回避することも撃ち落とすことも出来なかったのだ。まるで自らがその攻撃を受ける事を、運命付けられてしまったかのように。
そのまま立て続けに二、三発。そのいずれも、受け流すことすら出来ずに自分にダメージを与えていく――!?
そして何より、手数でも威力でも圧倒している筈の自分の攻撃を、この男は――食らっている気配がない!?
目を凝らしてよく見ると、偽冥の攻撃は全て――あの男の目の前で、何か見えない壁に阻まれるかのように霧消していったのだった。
この状況を理解できるだけの知識データを、偽冥は全く持ち合わせていなかった……。


「……さっすがダミーデータ……冥の攻撃が何ともないぜ」
オレはデータの中から予め、穴冥のオートプレイデータを引き出しておいた。そのタイミングで、一瞬だけ発生するバリアを発動させる防御プログラム、通称ダミーデータを開発、そのまま実戦で使用したんだが――この通り、あちらの攻撃は、最早オレには届きやしねぇ。
即席で作ったプログラムにしちゃ上々以上の出来だ。
そして、オレはさらにもう一つのプログラムも発動させていた。あまりにも卑怯で、CORE結成以前に起きた、ある伝説の事件から産み出したそれは――。


「……ジェネラル判定、ってのは知ってっか?」


『何故か』受け流すことの出来ない攻撃に困惑してるだろう偽冥に向けて、オレは呟いた。いや、最早驚愕だな、あの顔は。必死でオレの攻撃に耐えてやがるが――流石にキツいんじゃねぇか?
「ジュデッカがまだ新人の頃に起こった話だ。当時、まださして有名でない男を伝説まで押し上げた、最高に悪質なバグだぜ。まさか知らねぇとは言わせねぇぞ?……あ、そもそもテメェは生まれちゃいねぇか。なら知らなくても仕方ねぇよなぁ」
名探偵の推理のような、あるいは理想的な警察の取り調べのような余裕のある声で、オレは偽冥に話しかけた。
「その男――General Relativityは、バグのせいで自身の攻撃を、相手が前に戦った相手のそれに依存させてしまう体質になってしまった。つまり、攻撃能力が安定しない、そんな存在になってしまったらしい。
別にそれはそこまで問題じゃねぇ。当たる判定が大きくなるか小さくなるかだけだからな。
だがな……?


お前、直前に誰と戦った?」


「――!?」
偽冥の顔が、はっきりと驚愕に歪んだ。ようやく理解したらしいな。オレの小細工を。最大にして究極の、卑劣だと非難されても仕方がねぇ手段を。


偽冥は、レプリカの中でも最大の攻撃力を持つ。そもそも実践練習などさせる筈もねぇし、したとしても相手はノーツ数ゼロの戦闘データだ。判定も何もあったもんじゃねぇ。つまり、避ける手段がねぇ、防御不可能な攻撃がずっとぶち当たりまくる羽目になるわけだ。
一方のオレは、冥の譜面をそのまま受け流し無効化させるダミーデータにこのジェネラル判定。そうさ。つまり――!
「このオレに挑んだ時点で、テメーは負けてんだよ!」
オレはそのまま弾幕で偽冥の視界を塞ぐと、そのまま奴の背後に回り込んだ。
不可避の衝撃のせいで全く反応できねぇ、『最強』のレプリカに――、


「あばよ……」


ゴウンゴウンゴウンゴウンッ!
オレは大量のデータを一気に後頭部に叩き込んだ。


「……っふぅ」
背後に転がる偽冥の残骸。それを尻目に俺は、氷をぶち壊してL.E.D.氏を探すことにした。敵の本拠地の大きさ的に考えると、捕らえる場所はそう多くない筈……。
「……ん?」
待てよ?そういやまだ拡散粒子砲は完成しちゃいねぇよな?つーとやっぱし、
「………無謀行為承知で、乗り込むしかねぇよな」
拡散粒子砲の在りかに。


DOGGGGOOOOOOOOOOOOOOOOON!!!!
「……うっわ、派手にやらかしたなぁアイツら……」
左右から立ち上る黒煙、それはL.E.D.の二人が兵器プラントをぶち壊した証拠。左の方は完全に焼失し、右の方は今も黒煙が立ち上っている。最早動くこともねぇだろうさ。
「……で、アイツんとこに来る敵も減るだろうな」
リソナも、これで少しは楽になれんだろ。
さてオレは……ここからが本当の地獄だ。スケイプとリミッツさん、そしてL.E.D.さんを助けなきゃなんねぇ……ハードワークにも程があんぜ。まぁいいさ。
「一先ず敵は片っ端からぶっ壊してやらぁっ!」


ガゥンッ!ゴゥンッ!ドガァンッ!
野太い銃声が辺りに何度も響く。警護データをプログラムリボルバーで何体も撃ち抜いていく。
「……熱源は……」
俺はこの建物全体に熱源探知をかけた。結果――、
「全部最上階か」
こいつぁ好都合だ。俺の目的は人質救出。それが一点に纏められてんなら、救出もそれだけ楽に――ここまで考えたが、考え直してみりゃ寧ろ逆か。
「残党勢力全員集結させてやがんだろうな……」
そいつらを全員ぶっ倒せるか、それが問題だな。
監視カメラの死角で、俺がどう攻めるか考えを練っていると――!?

コツ……コツ……
目の前を歩いてくる、あの見慣れた浅黄色の髪の女は――!?


「スケイプっ!」
ズタズタに裂かれた服を身に纏い、異常にフラフラした足つきでこちらに近付くスケイプ……今すぐ処置しないとマズイ!
俺は咄嗟にスケイプの方へと駆け出した!そして今にも倒れそうな体を抱き締め――?


「は……く、に……げ……」


途切れ途切れのスケイプの声が、耳に届いた瞬間――


ザシュッ!
「――あ?」
胸に来る、鋭い痛み。
俺がそちらに目をやると――突き刺さったナイフと、それを握り締めるスケイプの手が見えた……。