ギタリストと雪女 その6


『いやぁ、流石ですね。僕もつい本気を出してしまいましたよ』
「速弾きじゃあんたには勝てないよ、俺は」
腕の痛さで分かる。当分ギター欠乏症は発症しないだろう。………あつつっ。後でちゃんとほぐしとくかな。
『それでは………はい。DoomのデモCDです』
キースはそう言うと、俺にCDを三枚渡した。………三枚?
『あれ?変ですか?日本ではCDを買うとき、一枚は鑑賞用、一枚は保存用、一枚は宣伝用として、三枚同じものを買うと聞いたのですが』
………誰だよ、ホントに誰だよ。明らかにパンピーじゃねーよその行動は。
「………ありがとよ。………部長にはちゃんと伝えとく」
受け入れなかったらゴネてゴネてゴネてやるつもりだ。
「………日本の風習でこんなんは知ってるか?別れ際、あるいは出会ったときにする儀礼
『あぁ名刺交換ですね』
キースは即答した。やはりな。
「ああ。生憎俺は今名刺を持ってないが………」
俺はメモ用紙を取り出し、俺のPCと、部長のPCのメルアドを書いて渡した。
「日本に来るときにはここに連絡してくれ。あ、こっちにはバスやら機材をチャーターしたい時に」
『わかりました。では、こちらも』
キースもメモ用紙にアドレスを書いて、俺に渡した。
『こっちはDoomのサイト用アドレスです。そしてこっちは僕の。メイがイングランドやオランダに行くことになったら連絡してくださいね』
何故にオランダ?………まぁいいか。
「そうさせてもらうさ。…………またやろうぜ、あれ」
俺が何気無く言った提案に、
『ええ。楽しみにしてます』
キースは手を出しながら答えた。相変わらずの笑顔で。
それから俺らは、固い握手を交した。


帰りのバスは、かつて無いほど静かだった。理由?
一度のライブにほぼ全力を使うDoomの面々は、ライブ終了後は体力を使い果たしてしまう。だから全員寝ているのだ。………バスが半端に広いスペースとられていたのはそのためか。
まぁ、…………かくいう俺も途中から寝ていたがな。



『――舞い散る雪――』


『――真紅にして白色――』


『――求めてはならぬ――』


『――求めるのなら――』


『――その命を奪い去らん――』


『――その存在を呪わん――』


『――全てを――』


『――奪い尽すのみ――』



『―――――それは単なるあなたの傲慢だ、長老殿。俺と霜月は―――』




………何の夢だ。
どうもアラスカに来てから妙な夢ばかり見る。霜月?母親か?あの声は親父…………あぁもぅ、夢のことであ〜だこ〜だ考えてどうする!?どうかしてるぞ俺。
…………落ち着け。
とりあえず今は何時だ。………ライブ終了から大体五十分か。あとちょいで着くな。
………ん?右手が………まだ弾き足りないのか。仕方ない。あの曲を弾くか。