『ピアノ協奏曲第一番'蠍火'』


beatmania2DXがDJ育成シミュレーションゲームでなくなってしまった事が証明された曲です。歴代のONE MORE EXTRA曲からも、この曲だけが遥かに異彩を放つその理由、それは………、


完全にクラシックなんだもん。


クラッシュ&サスペンドシンバルが鳴り響き!
ティンパニが轟音を鳴らし!
バックにはストリングと木管の壮大なオーケストレーション
そして全編に渡って鳴り響くピアノ!


ええそうです。キック音がないんです。ハイハットがないんです。楽譜があるならどこかのホールで楽団がやっていそうな曲なんです。
木管の音が打ち込みっぽくなければ、更にクラシッククラシックしてるんですがね…………。


そしてこの曲の極め付けは、サントラに入っているlongバージョンです。何と8分!この曲を聞いて浮かんだ風景を、曲の様子と合わせて下に書いてみました。


――ここから空想――


イントロ
pfの最高音と最低音をfffで叩いて始まる。過去の記録が書かれた古い本をめくるように、そっと優しくピアノが鳴る数小節。
ピアノとストリングによるffの和音と同時に雰囲気が一変。これから始まる悲しき物語を予感させるかのような鍵盤の連打。そしてコードGから物語は始まる……。


第一楽章
舞台は中世、一人の男がたどたどしい足取りで歩いている。服はボロ布、髭や髪は伸ばしっぱなし、顔は灰だらけ。ピアノの八分が、辺りに焼け野が原しか無い様を示している。
ストリングスや木管の風は、頬の涙すら拭うことができず、ただ焦げた砂を顔に吹き付けるのみ。
たまたま通りかかった旅人は、その男を呼び止め、近くの、ほとんど涸れ果てた川のほとりで話を聞く。なぜこの辺りはこんなにも寂しい色をしているのか、と。
男は、つっかえた物が溢れ出したように泣いた。ピアノの高速の運指、Cmをffで奏でる様はまさに激情。落ち着いた後、男は語り始めた。この国で起こった、悲しき戦いの全てを。そして、男が出会ったという、ある青年の物語を――


第二楽章
緑薫る村。木管が奏でる平和の旋律。かつての日々の回想。人々は日常と言う幸せの中で閑に暮らしていた。朝になればパンを焼く煙が家々から立ち上り、昼は男達は畑仕事に精を出し、女達は家事をきりもりする。子供達は広場で遊ぶ、そんなささやかな日常。
昼、青年は愛しき者と約束を交した。明日の朝、村の草原で会おう、見せたいものがあるんだ、と。
夕焼け、青年は、愛しいものの姿を思いながら、草野原に寝転がっていた。ピアノが淡々と奏でる花達。木管の綿毛、花弁が青年の上を通過していく。その一つを手にとり、溜め息。
いつしか夜になって、満点の星空が目の前に広がる。サスペンドシンバルの盛り上がりと共に、二章最大の盛り上がりを向かえ、青年は叫ぶ。
見よ!何と壮大な星空じゃないか!
青年は、雄大な夜空を見ながら自らの決意を固め、そのままいつしか眠りについていた………。


第三楽章
ティンパニの音と共に暗転。紅蓮に染まる村。漆黒の空を照らす街の火。ストリングスの風が伝えた血の香り。駆け回る鍵盤のように逸る気持を、何とか押さえつつ向かう。壊された家々、瓦礫の中からはみ出た手。ピクリとも動かない。掘り返して、静寂。


全て壊されていて、
青年は、
全てが壊れた。


激情をそのまま叩き付けたようなピアノ。満たされぬ思いを全て打ち付けたような。たけり狂い、静かに、だが徐々に、あまりに澄んだ怒りと狂気が心を廻る。唐突な崩壊。


彼を殺さんと近付く、村を焼き払った者の下っ端。だが、


オーケストラフル参加の、爆発、爆発、爆発。


青年の手によって逆に殺められた。


馬の駆ける音。時は更に進む。ギャロップ特有のリズムでピアノ。追い掛けるようにさらにピアノ。
下っ端の手に握られたロザリオ、破壊のための破壊を正当化する象徴(シンボル)。この世を統べる権力。
青年は闇。黒い甲冑に身を包み、黒い刃を持つ剣で敵を斬り倒す。
青年は闇。黒い甲冑に心を奪われ、ただ仇なす者を斬るだけの。


自らの行為。それはしかし、権力者の行為と何が変わっていたと言うのだろう。闇に覆われた心の、一片の塵。


やがて、ある滅びた村を見たとき、


束の間の静寂。こみ上げる感情を表すように鍵盤の音は高くなっていき、そしてサスペンドから、


叩き付ける激情のピアノ三連符の壁。


――旅人は問うた。その青年はどうなったのかと。男は答えた――

たどり着いた終着点。男の執着点。待ち受けたのは、正義と言う悪。既にその手には、白き剣を持つ。
激情に委せて剣を振るう男と、それを馬鹿にする目で見ながら、剣を振る敵。村での激情と同じ調子の、いや、それよりも激しいピアノ、オーケストラ。


そしてピアノによる一瞬の静寂に、敵は呟いてしまった。


――我に逆らうものは皆、死するべき。それぞ神が望みたもう世なり――


サスペンド。オーケストラ、ピアノは地の底より鳴り響き、そして紅蓮の空へ……。
一振り、敵の純白の剣が折れる。
二振り、敵の左腕がもがれる。
三振り、敵の両足が切られる。
四振り、敵の右腕が斬られる。
五振り六振り七振り八振りと、敵の体は刻まれていき、


全て叩き付ける様なピアノと、荒れ狂うオーケストラ、シンバルは四分音符を、すべてfffで刻み、そして、唐突に、


二五振り、敵の首が宙を舞った。

終幕
はらり、落ちる華。
はらり、はらり。


――男の行方ですか?――


――男なら………――


――自らの村で、自害したそうです――


――その後、沢山の人が戦い、沢山の人がなくなりました――


――虐げられるのは、大抵が私達下層のもの――


――青年の行いの後に、世が変わることを願いたいですが………――


これは、後世、『亡霊(ファントム)』と呼ばれた黒騎士の、物語。


――空想終了――


ゲーム難易度ははっきり言って上級者以外お断りなので、CDで聞くことをお勧めします。