小説案その十四


『echo』


「………今でも、あの男の事を?」
『―――ええ』
「………自分の事しか愛せなかったあいつを、か?」
『―――あいつだなんて、言わないで下さい』
「………あぁ、済まない」
『―――』
「………ただ、君をこのような姿にしたあの男を、私は許せなくてね」
『―――いいの』
「………」
『―――いいの。だって、私は彼を』
「………愛しているから、か」
『―――ええ』
「………あの男の行く末を、知っていても、か」
『―――そうよ』
「………そうか」
『―――』
「………君の見える場所に、この花を植えておくよ。これが、俺に出来ることだ」
『―――ありがとう』


ナルキッソスとの恋に破れ、その体を失ったエコー。旅する青年は彼女に偶然'出会い'、話す機会を得た。
これは、旅人が綴る、彼女の哀しき恋物語―――。