A-少年A-が出来るまで-3


「そういや繚乱は?」
「ビル建設反対運動の集会に出てるよ。この辺りを開発しようとしてるみたいで……ぱくぱく」
OVER THE CLOUDS姉さんとmake a difference姉さんは、HEAVEN INSIDE氏、WISH氏らと慈善活動にいそしんでいらっしゃいます」
「wishさんってぇ〜、私の同期のぉ〜?」
「玄武、二寺国のじゃない。ギタドラ国のだ。まぁテンポはお前と同じくらい遅いが」
LinusとLucyは………」
「………あ、携帯。Regulus姉さんからだ」
「何と書いてある?姉上」
「ちょっと待って。何何……『前略』………めんどいから飛ばして………成程ねぇ」
「どうなさったんですか?」
「ジェノと修羅場ってた蠍火を実家に呼ぼうとして、巻き添え食らってふじこってたみたい。今姉さんが回収してるって」
「御愁傷様………」
「蠍お姉ちゃんって」
「確か帰らないって言ってたよね」
「多分忘れてたんだろうね。そろそろ歳いきそうだから」
「あんたと殆んど変わらないでしょう!処罰!」
「ギャー!姉さん食事中にHARD判定で密集地帯打つのはやm(ry」
「(ボソ)スピカ姉さんの前で、年齢の話は禁物です(ボソ)」
「(ボソ)体で分かってる。別の奴の話題なのに何回ふじこられたか………(ボソ)」



………とまぁこんな感じに食事は和気あいあいと進んでいった。食事はやっぱこれだよな。いつもわびしく弟と、ちゃぶだいを囲んで何かを摘んでいたけど、本当の食事はやっぱりこれだよな。
とりとめの無い会話で盛り上がりながら、周囲の漫談を聞きながら、それに参加しながら箸を進めていく。これが食事の楽しみだよな。
ふと、俺は親父のところに行った弟が気になった。
AA………あいつも今こんな風に食事をしてんだろうか?
そう考えたとき、俺の携帯にメールが一つ。弟からのものだ。
『兄者、元気か?こっちは寒い。スノストとV兄とフロレ兄が揃った所為で、部屋の中ですらコート無しではいられないぜ………』
「…………うわぁ」
御愁傷様だ………弟よ。


食後、gardenが育てたハーブティーを飲みながら、玄武の作ったデザートの、ペパーミントの乗ったレアチーズケーキを頂く。舌に乗せた瞬間とろけるようで、滅茶苦茶美味い。玄武曰く、
「お嬢様のおやつはぁ〜、大体私が作ってるよぉ〜」
長いので以下俺が解説。青龍はワラビモーチ(・∀・)以外作る気無し、朱雀はオードブル専門、白虎は和菓子風になってしまうらしい。手際は良いのは認める。問題は、動きの遅さは手際だけで補えるものではないことだ。
種明かしすれば答えは簡単。白虎に手伝わせていたのだ。四天王最速の白虎に、素早さが必要とされる作業をやらせる。効率も味もよくなるわけだ。……時々和菓子風になってしまうらしいが。
『さぁて、音響寺の時間がやって参りました!この時間のMCは私、姫と半月君でお送りいたします!』
ラジオからやたら元気のいい声が響いてきた。姫ことLittle Little Princessの声だ。姫は音響寺現行メンバーの一人。最近はこうやってMCもやったりしているが、初登場の時は右も左も分からぬ典型的お嬢様だった事を考えると………時の流れは早いな。
食べ終った皿を流しで軽く洗い、俺は縁側に出てみた。幸いな事に、蚊の気配はない。
縁側に腰掛けながら、俺は辺りの景色を見回してみた。この家の明かりのお陰で近くは見渡せるが、少し視界を遠くにやると、そこは闇。ただ月が頼りなさげな光を地に投げ掛けるのみだ。
所々、マッチで灯したような光が見えるのは、他の家か。一家一家が、わりと離れているせいで、光は固まらず、ぼんやりと辺りを照らすだけだ。
月。
そう言えば、7番街からは月ぐらいしか、夜空に見えなかったな。
俺は空を今一度見上げてみた。
月も輝くが、それだけではない。北極星カシオペア白鳥座の名残、大熊子熊、大犬子犬、その他俺が名前を知らない星座や間違えて覚えているかもしれないもの、その他星座にならない小さな星々が、空一面に散りばめられたコンペイトウのようにキラキラ光っている。
地よりも明るい空。
何か不思議な感じだ。
きっとこう感じるのも、都会にしかいなかったからなのだろう。
「流星に………背を向けた。
祈る指を、人知れずほどいて」
いつしか俺は、知らず歌っていた。俺が近付くかもしれない曲、Little prayerを。
「魔法の、解けた祈る歌を
静寂へと捨てた」


「眠れなくていつか、登った屋根から」
後ろから、俺の声に続けるように歌声が聞こえた。その声は俺の耳と肩に確かな感触をもってぶつかってきた。
「コンペイトウの街。
キラキラ、宝石箱と信じていた」
ムンチャは、俺の隣に来ると、縁側に座り、夜空を眺め、歌を続けた。
俺も、合わせて歌う。


――鏡の中にLittle Prayer
僕は、君に委せ走ろう
夜を、追い越すんだ、今!――


「――リトプレじゃなくて残念だったかい?」
悪戯そうな声で、嫌味に話しかけるムンチャ。折角の気分が台無しだ。
「お前が、この場所に来たことが残念だ」
「そうかい♪」
ニヤニヤと笑っているのがよく分かる。顔は見えなくともよく分かる。俺の皮肉を、物凄い勢いで受け流しやがって……。
「――伝えておきたいことがあってね」
ん?
「何だ?」
急にシリアスになったムンチャの声に、やや驚きながらも俺は返す。
ムンチャは、声のトーンを保って言った。
「明日の夜、リトプレと一緒に案内したい場所がある」
「今日じゃ駄目なのか?」
「まだAはこっちに来たばかりだろう?疲れがとれた状態で行かなきゃ、かなりキツイ場所だからね」
もったいぶるムンチャに痺を切らした俺は、やや苛立った声で聞いた。
「で、結局何処に行くんだ?」
それに対してもムンチャは、人指し指を自分の唇に当て、こんなことを抜かしやがった。
「お楽しみは、知らない方が面白い、だよ」
あははっ、と笑い声がすると、ムンチャは一気に家に戻っていった。
くそ、また捕え損ねた。
楽しみも何も、不安且つ期待の生殺し状態にしやがって………どうもあいつは俺に合わねぇ………。
………興が冷めた俺は、ムンチャと同じように家の中に入って――網戸を閉めた。その勢いで家へと入ってくる風が――何と無く心地良い。
気分はやや最悪だがな。


風呂に行くと、黒猫が一匹戸の前で伸びていた。踏むといけないので洗濯機の上に置いて、風呂場の戸をノックする。
「かぷかぷ〜♪」
誰かが入っていたらしい――ってオイ!今の声なんだよ!
明らかに女声だったんで俺は一度洗面所を出て、和室であぐらでくつろいでいるスピカに、若干のその他の疑問を押し殺して訊いた。
「今風呂入ってんのは――」
スピカはジョッキ満杯のビールを飲み干すと、アルコールの所為でとろんとした瞳を俺に向けながら、ろれつのやや回らない声で答えてきた。
「末妹のsmileよぉ。多分かぷかぷ笑ってたでしょぉ?」
あの声………笑い声かよ!
「パーティに来てなかったのはあの娘ぉ、7段担当だからぁ、サファリの見送りとぉガオー♪とれいんぼー♪の処理をしてたみたいよぉ」
………そりゃ来れないわけだ。一体何人もの六段その他が挑んでは食われていったか………。速度上昇して更に狂暴さが増したからな。
「あはは♪Aも飲むぅ?」
そうスピカが俺に突き出して来たものは……銘酒'久保田'。親父の誕生日パーティで振る舞われ、多数の泥酔者を出したと思われる酒だ。
流石に泥酔して風呂に入るのは危険だと思ったので、俺はやんわりと断り、次の飲みには出るとも約束した。
――オヤジギャルかよ、あいつは。


「――ふぅ」
洗面所から高校生くらいの、スマイリーマークのヘアバンドをつけた少女が、気絶した黒猫を抱きながらかぷかぷ笑いながら出てきたのを確認すると、俺は風呂用具一式と共に風呂へと向かった。
体を洗い、湯船に浸って安堵の溜め息。
「ふぅ…………」
思えば遠くに来たもんだ。
電車に揺られて数時間。着いたここはムンチャの実家。
はっきり言って、弩田舎だ。
だが――。
「都会じゃこれはないもんな………」
満天の月の下、露天風呂。よく作りやがるよ、施工:moon-childって掘られてるし。
………ん?その下に書いてあるのは………。


財源:Votum Stellarum


「………あいつかーー!!!!」
ポップン国出身だった俺の弟であり、この家出身でもあるステラ(読みが分からねぇ……orz)。誰かが星に願う願い事を、百万分の一の確率で叶えられる能力の持ち主。
まさか………ムンチャ、お前願ったんじゃないだろうな?
………そんな考えは脇に置いとこう。今は―――。


月に照らされ、朧気に光る稲。
風に揺らめき、ゆらゆらさわさわと音を届ける。
遥か遠くの森。
月の光を受けた電波塔は。
その光を森に散らして。
散らされた光は。
まるで幾億の蛍のようで。
スノストが散らす粉雪のようで。誓いが散らす鱗粉のようで。
寄り合い集いまた離れ。
辺りを照らし落ちていく。


この風景を、心行くまで堪能しようか。


風呂から上がったら、ムンチャの言う通り、体に疲れがたまっていたらしい。
寝室の場所をリトプレに訊いた俺は、お休みなさいと一言、部屋に向かい、早々に布団を被って寝てしまった………。
俺の意識が途切れるのは、その三秒後。まさしくおやすみ三秒。


―――――――――


――あはは〜♪


――お〜い、待ってよぉ〜♪


――………あれ?ここはどこぉ………?


――もしかして………帰れなくなっちゃった………?


――う、うわぁぁぁぁぁぁぁっ!


――助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!


――………(空白)…………


――………あれ?ここは――




―――綺麗―――




―――――――――


チュン、チュン、チュチュンチュン…………。
………ん。
雀の声で起きるとはな………。
目覚ましの意味が無くなったぜ。
時間を確認すると、午前六時。
分かりやすい典型的な起床時間だ。


………不思議な夢だったな。
森の中、何かを追い求めて、そうしているうちに帰り道が分からなくなって、そしたら草の茂みから何かが出てきて、それを怖がって逃げているうちにつまづいて、やや急な坂をころげて、そして見えた景色が――
………ち、夢だから記憶に殆んど残らねぇか。大筋は覚えているんだがな………。


………トントントン………


下から響く包丁の音。
この一家はどうやら起きるのが滅茶苦茶早いらしい。流石田舎。
さて、俺も着替えますかね。


赤いシャツにダメージドジーンズという至ってラフな格好の俺を下で待っていたのは、
「わぁ〜、Aさんおはよぉ〜」
意外にも玄武だった。割烹着姿の玄武が厨房でスープを作っていた。
「あ〜、もうすぐパンが焼き上がるからぁ〜、待っててぇ〜」
お玉でスープを掬い、味見をする玄武。手際は良い。惜しむらくは動きが遅い事だ。
「おはよう………他の奴は?」
挨拶もそこそこに訊く俺に、玄武は寝てるよぉ〜と間伸びした返事をした。
そうか寝ているのか、と席に座って――和室方向に、何かが倒れているのに気付いた。
………いや、訂正しよう。何が倒れているのかは分かる。
「スピカ…………」
あいつ、酒飲んでそのまま寝たのか………。この状況は婿入り前の彼氏も裸足で逃げ出すかもな………。
と、その向こうに何かが吊されて――あぁっ!?
「ムンチャ〜〜〜〜〜ッ!」
ガラス――多分強化ガラスになってんのか?――にキリストよろしくムンチャは裸で磔にされていた。
その股間の辺りには張り紙に『覗き魔征伐!』と丸文字で書かれていた。
「あ〜、ムンチャ君はぁ〜、黒猫の姿でリトプレお姉さんの風呂を覗いたためぇ〜、嘆き式拷問〜wacリミックス〜を食らってもらいましたぁ〜」
玄武が俺の愕然としている様子に気付き、こう付け加える。至って笑顔だ。実際参加したに違いない。
冷や汗。もし俺が他の奴と一緒で、尚且ここの風呂が露天風呂だと知っていたら、全員で特攻したに違いない。そして全員ふじこられて、この無様な格好を晒したに違いないと考えると………うわ、凄まじく危なかったな俺は………。