A-少年A-が出来るまで-11


「………は?」
ど、どういうこった?
「だからぁ、必要なんですよぉ。リミックスによっては本当に原型留めなくなりますからぁ」
がしっ。
気付けばがっしりと、左腕を玄武に、右腕をスピカによって掴まれていた。そして玄武のもう片方の手は、何やら得体の知れないスイッチが。
ポチ、ガー。
………あぁ、懲罰室の開閉ボタンか………じゃねぇ!
「さぁぁ、楽園に逝きましょおぉ………お兄様ぁ………」
「うふ、うふふふ、うふふふふぅ…………!」
「い………」
だから玄武それは俺の死亡フラグ成立っつかスピカその笑いはお前に似合わん以前にキモイってあぁリトプレハンカチで目頭をおさえないでくれ――じゃねぇよっ!


「嫌ァァァァァァァァァッ!」


妹役二名に体を引きずられながら、抵抗不可能な俺は『りみっくするぅむ』へと連れ去られていった………。


抱き石、回転三角木馬、血まみれの囚人服、怪獣の着ぐるみ、玄武マシンへの転送機らしきもの(玄武のメモらしき物が貼ってあった)、モーニングスター(何故か『もってくな!らき☆すた』と書いてある……この武器の名前か?)、クリスマス用キャンドルに正月用しめ縄………。
「カオス過ぎだろ………」
つーか少しは片付けろ玄武。そしてスピカ、お前は拷問器具をみて目を爛々と輝かせるな。
「えぇ〜?お嬢様の城にある地下室に比べればぁ〜、こんなのぉ〜」
「分かったから皆まで言うな」
これがさらにカオスってどんな状況だよ……。
抵抗?諦めたから今は自分の足で歩いてる。wac氏曰く「あまりA君を傷付けないでね、二つの意味で」らしい。発言自体にも色々と突っ込みたいが、既にこの部屋に来る時点で一つは反故にされている気がするが、まぁいいだろうさ。許容範囲ではある。
で、リミックスされる場所であるこの部屋を眺め見たわけだが………これは酷い。スクイズの終り方並に酷い。そりゃマーマーも一時的にああもなるわ。
………周りはなるべくこれ以上見ないようにしよう。それが精神衛生上良さそうだ。
「着きましたよぉ〜」
やがてドアの前に到着した時に、玄武は一声、そしてノックを二回。
聞こえてきた声は――


「入って〜」


………おい。何かむっちゃ聞き覚えのある声してたぞ?まさか――
そんな俺の悪い予感は、ドアの解放音と共に現実と化した。


「やぁ、よく来たね――ってちょ!来てすぐ逃げないの!」


「失礼しましたぁっ!」
がし。
ちっ、逃亡失敗か。俺の片腕が玄武に完全に握られてやがるからな。動かない動けない。
「I always stand by you...」
「なら俺の味方をしてくれよ!」
何でムンチャがこの部屋に居るんだよ!この部屋にはwac氏しかいない筈で……!まさか!
「あぁ親父、今回はムンチャの体使ったの?」
スピカの質問に、頷くムンチャ=wac氏。表情は至って普段のムンチャと変わらない――かと思えば少し違う。どちらかと言うと……苦労性な感じがする顔だ。
確かに違う。
ふいんき(ryが違う。


「…………」
何てこった。こっちはそのままwac氏が来ると思ったら、既存曲の体を借りてこっちに来るのかよ。
「その顔は、少しどころでなく残念そうだねぇ。こちらも残念だよ」
どこか頼りないムンチャと言った風にwac氏は俺に話しかけてきた。ムンチャと同じ声なだけに違和感ありありだが、まぁ仕方ない。
「………済みません。期待していた出会いとかなり違っていたもので」
何が悲しゅうて懲罰室奥の部屋でリミックスされなきゃならん?
何が悲しゅうてムンチャの体にリミックスされなきゃならん?
そんな俺の悲痛な心の叫びをwac氏は汲みとったのか、幽かに冷や汗をにじませて、慌てたように口を動かし始めた。
「いやさ、僕もこの部屋は外面的にも精神的にも不味いんじゃないかっていうか不味いだろとか色々と考えて悶々としながらどうにかしようとか考えたり考えなかったりしたわけで。でもこの家の中身を考えたときにここが一番安全かつ静かにリミックスが行えるんだよ。どういう事かっていうとねただでさえこの部屋誰も来ないでしょ?なのにどうしてどうしてか分からないけどPCや電気機器類が完備されてるんだよ。まるでボクが嫌いな全解析の機体のようにね。あぁ解析っていうのは君達の中身を全て調べられる状態のことだよ。やったらつねるよ。ボクは。本当に。
それとどうしてムンチャの体を使っているかと言うと実は本当はノイを使うつもりだったんだけど手違いで一度機体の方に呼ばれちゃって対象として選択できなかったんだ。あ、でも大丈夫だよ。リミックス自体はムンチャの体でやっても結果は変わらないから心配しないで欲しいな。心配?こいつ普段何やってるのさ。お願いだから心配しないで欲しいな。どんな姿でもボクはボクだから」
「……………」
な、長ぇ……。これが一部では有名なwac氏の長話か………。
「Zzz………」
スピカは寝てやがるし………。
「く〜………」
って玄武も寝てやがるし!お前ら二人は少しは耐えろや!お前らの親だろ!………まてよ。ある意味これはチャンスか。………こいつらが居ると余計な邪魔をされそうだし、な。
「………信用しますから、早く始めませんか?リミックス」
端から見たら掌を返したように見られる言動。だがそれすら見越していたらしいwac氏は、
「ボクとしてもその方が助かるよ………」
溜め息がちにそう漏らした。………ちょい待て。お前ら二人、親に何したんだよ。


「まず良いかい。今からするリミックスは、原型がほとんど残らない状態になるかもしれない。それは承知してもらえるかい?」
手術台の様なものに寝かされ、頭に電極をつけられた状態の俺に、wac氏は問掛けてきた。
「記憶とか、感情とか、その辺りは大丈夫なのか?」
俺の問いに、wac氏は微笑みながら頷いた。
「下準備は出来ているからね。問題はないよ」
そのまま指を動かしていくwac氏。………下準備?
「……下準備、って何だ?何かされたか?」
疑問そうな声を出す(実際疑問なんだが)俺に、wac氏はムンチャなら絶対見せないような心からの微笑みを浮かべ――。


「すぐに分かるよ――」


人指し指を動かした――風に見えた。
ホントに動かしたのかは分からない。というのは、次の瞬間には、俺の意識は完全にブラックアウトしていたからだ。
残響したように響く氏の声の意味を理解する前に――。


―――――――――――


暗い森。
鈴の音は鈴虫の合唱。
生い茂る草が滑り落ちそうな俺の足を何とか繋ぎ止めているような。
木々は行く手を塞ぎ、あるいは指し示すかのように根を、地表に隆起させている。
何気無く、上を眺めてみる。
月。
三日月から半月、満月へと、次々に移り変わり、その度に辺りの明るさが変化していく。
見えるものから見えないものへ。
見えないものから見えるものへ。

俺はこの森に見覚えはあった。
『神灯』の森だ。
あの時は、怪物に対する恐怖があったから、殆んど周りを見れてなかったんだよな――。
少し歩いてみるのも、良いかもしれない。
俺は思考をすぐさま行動へと移した。目指す先は――?
「―――」
木の間に見える電波塔、そこに、何と無く行きたくなった。どこか、何故か心惹かれるのだ。
「―――」
気付けば、ふらり、ふらり、と脚は動き、徐々に電波塔に近付いて行く俺がいた……。


電波塔に辿り着いたとき、俺が目にしたもの。それは、無数の蛍が電波塔を照らすようにある者は舞い、ある者は張り付いていると言う光景だった。
虫嫌いなら卒倒していたかもしれない。だが、俺はそこまで虫は嫌いではない。それどころか――。
(綺麗だ…………)
増えては消え、消えては増える光に、俺は魅入られ、そのままふらりと、電波塔へと体を進める。
ふと足元を見た俺は――一度足を止めた。


自分の影が、その姿を消していたのだ。
辺りは蛍の光の影響で、眩いばかりに輝いている。なのに、自分の側にある筈の影が見当たらなかった。
まるで、自分の体を光がすり抜けてしまっているかのように――。

――こっちだよ。


声が聞こえた。どこか俺に似た――だが幼い声が。
そちらの方にやや焦ったように顔を向けると、俺の顔は丁度、電波塔の入り口に向けられており――そこに影はあった。一人、何か遊んでいるようだ。
戻ってこい、俺は手招きしながら呼び掛けたが、影はなにも反応しない。仕方なく影に近付くと――!
「!!!!!」
突然影は俺から遠ざかり始めた!しかも猛烈なスピードで!
「!!!!」
影を逃すものか、と俺も懸命に走った!追い付かなければならない、と言う気持ちが、俺の脚に動けと命令する!
「――っ!――っ!」
だが、次第に俺の脚は重くなっていった――同時に、体もどこか縮み始める。残念ながらそれを気にしている余裕は、俺には微塵もなかった。影を――影を捕まえること、それが大切だった。
だが――!


「―――っ!!!!」


短くなった脚に、地面の草は容赦なく絡み付く。俺はそれに足をとられ――転んだ。さらに、その場所は、すぐに下り坂になっていて――。


………気が付くと、俺はあの湖にいた。蛍は電波塔に集っているのか、今は一匹も姿を見せていない。だが、湖の水、それ自体がその様子を変えていた。
全く、波一つ立っていないのだ。
試しに俺は近付いて、水に触れてみる。………固かった。氷に触れているかのように――。


その場で何気無く顔を上げた俺は、気付いてしまった。湖の中心、そこに自分の影があることに。
幸い、相手は気付いていない。ここで逃したら――!
俺は全力で走り出した!湖の上を、足音を微塵も気にせずに!
影は、それでも気付いたような気配を見せなかった。罠かもしれない、ひっかけかもしれない、そんな考えは俺の中にありはしなかった。ただひたすらに追い掛けて――追い掛けた!
肺が悲鳴をあげる。足が苦痛を叫ぶ。それでも俺は影を目がけて走った。
影は俺の方を振り返ると、そのまま逃げの体勢に入った。だが――!


――もう遅い。


「――!!!!!!」
俺は、思いきり踏み込み、影の体を抱き締めた!
「!!!!!!!!!!!」


――空に照る、月。それが俺の体を貫くと――。


――――――――――――


「…………んんっ」
何か、長い間寝ていたような、そんな感じがす………る………?
「……ん?」
あら?何だ?体の感じが変だぞ。思ったより力が入らない……!?


「………ん、やっとお父さん移動しちゃったか………あれ?君は?」


不思議そうにしている、起床直後のムンチャの、その瞳に映る俺の顔は――思わず天井の鏡で確認しちまったが――写真で見たことがある、少年時代の俺に瓜二つだった。


「子供姿の俺………?」
「少年姿のA(エース)………?」
………俺とムンチャは、思わず同時に漏らしてしまっていた。


「「少年エース………?」」


――どこの雑誌だよ。そんな俺の疑問はよそに、ムンチャは色々と口走り始めた。
「――残酷な天使?」
「ポプ国に行ってこい」
「――夢はここにあるよ?」
「謝れ!CL〇MPに謝れ!」
「ゼロっかーら、はーじめっよー!」
「それはこの雑誌じゃねぇだろ!」
「Don't you forget! 私がいること!?」
「アニメ第何期だよ!それも雑誌違くないか!?」
「たとえ火の中水の中草の中森の中?」
「会社が違う!――つぅかそろそろ言わせろ!」
あぁったくっ!いらんツッコミさせんな!肝心な奴をやらせれ!
俺は、心の中で溜めていたものを、ようやく解放した。


「――俺は雑誌じゃNeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeee!!!!!!!!ゲホッゲホッケホッ………」


――くそー、体が幼くなってるから大声が出しづらい!
「はいはい〜少年よ、ホットミルクはいかがかな?今ならリトプレが――」
大声出した直後で動けない俺に、ムンチャはおどけた調子で問掛けた――が、ちょい待て?この先の台詞は危険な気がするぞ?
「――玄武と作ったココアパウダーを入れるよ〜」
危険なのは俺の脳です本当にありがとうございました。
「………ココアでお願い……ヶホ」