Sorrows


『痕跡|  』


硝子の薔薇の花弁が
ひらり
ぴとり
ぴしり
澄んだ音を立てて割れていく


水に浸した私の手は
周りが赤く染まるばかり
痛みすら
冷たさすら
感じることを忘れさせるほどに


叫び


春の庭
色で満ちたその場所で
私は二人で居たんだ
隣には彼……?
彼の顔は何処?


黒に染まっていく
何もかもが灰に変わっていく
世界が
私以外が
燃え尽きてしまう……!


握った彼の腕は
幾億の蝙蝠と化して
暗雲の中へと飛び立つ
旋風を引き連れて


手を伸ばした
利き腕を伸ばした
けど脚に力はなくて
けど声はとうに嗄れて
引き留めることすら出来ずに


鳥かごを抱えた少女は
逃がした鳥を羨むこと無く
この場に佇むと言うのに
私は何も拭えぬまま
無くしたものを探している