GENOM SCREAMS-SPECIAL THANXX RMX-が出来るまで 2nd


「!?」
男の一言に、俺は動揺せざるを得なかった。
GUILTYと言えば、実質冥界(削除界)の管理者だ。それが冥界から連れ去られたとなっては、今の冥界に法が無くなったことを意味する。混沌の中、亡霊や過去の曲が大挙してこちらの世界に押し掛けることも有りうるのだ。
「……ヘルスケ……」
恐らくあいつが何らかの方法を使い、CORE辺りに連絡を入れたんだろう。あの事件以降、冥界との連携が綿密に行われるようになったのだ。若干ハードワーク気味ではないか?と心配したが、DDR国に噂で伝わるCOREの面々の様子からするに、その心配は杞憂らしい。Mr.T家のエレクトロショック四兄弟や、武装担当のGENOCIDEも居る事から、寧ろこちらの方が仕事として適量らしい。
「ヘルスケ氏も既にこちらで独自に行動しているらしい。今は連絡が付かないが……」
……まぁ予想はつく。あいつの事だ。恐らく携帯や無線機の電源を切っているのだろう。『仕事』中の規則に忠実に。
「……情報、そして迎え、感謝する」
一先ずここに留まっていてもしょうがない。俺は荷物を手に持ち――幾つか量を減らして――迎えの車の後ろに乗った。
渡されたメットの後ろを幽かに叩いて、何も付いていないことを確認する。それを装着する前に、俺は大事なことを尋ねた。
「そう言えば、名前を訊いてなかったな。私の自己紹介は――」
「必要ないね。貴方の話は弟から聞いているし」
やや乾いた、どこか悪魔じみた笑いをすると、座席に置いたメットを手に取りながら答えた。
「Set Up兄弟が一人、lower worldだ。ロワーとでも呼んで欲しい。テッポーイとバイクには定評がある。これからCOREまで飛ばすつもりだ。しっかり掴まっていて欲しい」


――――――――――――――


昨日の夕方のような大した妨害もなく、国境管理ゲートを越えた俺達二人は、そのまま11番街のCORE前へと到着した。所要時間は一・二時間といったところか。色々と物理法則なり機体性能なり突っ込みたいところは山のようにあるが、まぁそれはよしとしよう。
問題は……。
「伏せていたか……」
「やられたね……」


俺達を囲う件の黒い兵士がCORE周辺で待ち伏せていた事なんだが。


「……完全に俺達を狙っているね」
「……だろうな」
でなければこんなに都合良く待ち伏せなんざする筈も無いからな。
俺はバッグからガントレットを取り出し、両腕に装着する。ロワーは腰のベルトから拳銃を二本取り出した。横には『Crime』『Penalty』と言う文字が彫られている。それぞれ口径は28、36といったところか。
「……いい武器を持っているな」
「御互いに」
互いに背中を合わせて、囲んでいる敵の数を確認する。
――ざっと二十。
俺は軽く拳を握り直し、背越しに囁いた。
「十・十でどうだ?」
「よろしく」
ジャキッ、と奴の手元で音がする。弾を詰め終えたらしい。既に奴の目は、目の前の敵――獲物しか映していない。
尤も俺も――状況は一緒だがな。
物言わぬ敵に対して、背中合わせに身構える俺達。一瞬の停止。空気も、時ですら止まってしまう瞬間――果たしてそれは存在したのか。
相手が武器を振り上げた瞬間――!


「疾っ!」
「Lock!」


俺は駆け、奴は引き金を引いた。


「覇っ!破っ!把ぁっ!」
的確に、相手の急所となるであろう場所を打ち抜いていく俺。振り上げられた武器をガントレットで受け流しつつ、裏拳と正拳、踵落とし、回し蹴り何でも御座れと言った具合に仕留めていく。殺陣の撮影のような立ち回り。だが、殺陣では断じてない。これは命のやり取りなのだ。殺られたら――終わる。
「Un,Deux,Trois,Quatre,Cinq,Six,Sept....」
ロワーの方も、一発一発で仕留めているようだ。どちらの銃も装填数は六。計算が正しければ、銃には一つずつの弾丸が残る筈。
相手に近付かれること無く、対象を撃ち抜いていくロワー。スパイラルから聞いた話では、二丁拳銃と功夫を混ぜた武術を習得したらしい。……この男はどこの匿名希望シスターだ、と。
……俺も人の事は言えない、か。脚はテコンドーとムエタイ、体捌きは古武術。手は柔道とレスリング。あとは我流。細胞が叫ぶんだ。


――お前はこう動け、とな。


「――勢っ!覇ぁっ!」
兎に角内側に近づく、間合いを一瞬で詰め、必殺の一撃を決める、それが俺のスタイル。同一箇所を狙いつつ、捌きにくい一撃を加え、進む。急所となる部分以外に防具をつけない理由がそれだ。重くなると、一撃の重さがやや増すが動きが鈍くなる。強靭な体は、それだけで強固な鎧となる以上、不要な装備は必要ない。寧ろ身に付けることで回避能力が格段に落ちる。それは同時に、パワー×スピード×ウェイト=破壊力が物を言う格闘に於いて、重要な一角をみすみす逃してしまう事になる。
スピードは命中にも繋がる。どんな重い攻撃も、相手に当たらなければ意味がない。無闇な力だけの強化は、自慢の武器を重たいだけの屑鉄に変えてしまうだけだ。
故に俺は、必要最小限の防具しか着けない。他は――己を鍛えれば事足りる。
「――dix」
「――拿ぁっ!」
俺の掌底が胸を貫くと同時に、ロワーの『Penalty』が、最後の敵を――的を沈めた。
撃ち抜かれた敵は、その場で即座に崩れ去り、後に残るのは、弾創と足跡、そして様々な刃物傷がくっきりと顕れた地面のみ。一先ず、当面の危機は脱したようだ。
「……押忍」
俺は昂った気を抑えるため深呼吸をすると、ガントレットを再びバッグに仕舞った。ロワーもガンホルダーに二丁の拳銃を仕舞う。
「……内部はどうなってんだかね」
やや呆れたようにロワーが呟く。だがその視線は鋭くCOREに向けられている。
心配しているのだろう。いくら長兄や末弟が実力があろうと、物量の前に太刀打ちできるかどうかは別問題だ。
かく言う自分も、中は心配だ。個人的な理由と言えば個人的な理由だが、set up兄弟が揃わない限りリミックスなどしてる暇はないわけで。それに――あの『事件』に於いて我がL.E.D.一家はset up末弟に――いや、CORE救われた。危機にあるなら、援護に入るのも当然だろう。それが義であり、
「……時間が惜しいな。入ろうか」
「……だね」
拳の握り加減を確認してから、俺達はCORE内部に駆け足で入っていった。


ズゴォンッ!
ズゴシュッ!
ゴウンッ!
中で響くのは、当然と言うべきか、明らかに戦闘中と言える騒音であった。恐らく、このエレベーターから昇ってきたのかもしれない。偽造の曲パスを使って。
「挟み撃ちするか?」
建物の中心軸部分から一定の距離を保って作られた、円周の通路。その構造上挟み撃ちが可能になる。二手に別れて攻めれば、行き着く先がそうなるの必至だ。
だが……、
「止めとく。貴方を撃ち抜きかねないし」
先程は背中合わせだから互いを気にせずに済んだ。だが今回は互いに向かい合う形になる。只でさえ暴れるには狭い通路だ。その上に跳弾の可能性もある。銃口を見ること無く弾を避けることなど俺には出来ないし、ましてや予測不可能の跳弾を避けることなどまず無理だ。ならば最初からその可能性を無くす方がいい。つまり――。
「弾切れになるまで打ち続ける。弾切れになったら――その時は一気に進撃して」
ロワーは愛銃にマガジンをセットし――飛び出した。
「……了解」
さて、この選択にはもう一つ、忘れてはいけない事実の確認が必要だ。敵は物量戦を挑んでいる。そして感情がなく、手段に躊躇いがない。ならばその敵が俺達を確実に仕留めるためにとる手段は何だ?
「………」
ロワーの背中に回り込んだ俺は、一言耳打ちして、待つ。狙い通りなら奴等は、俺達を挟み撃ちしてくる筈だ。
――予想通り。
「……お出ましだね」
「……ああ」
雪崩れ込むようにこちらに迫る負傷兵の山。流石TAKA家筆頭の武闘家兄弟と、戦いを経た電脳の中枢。そうそう相手に負けはしない。
「後始末……」
ジャキ、とロワーの手元で音がする。二丁拳銃をセットアップしたらしい。
俺も――拳の握り具合を確認し、簡易式ガントレットを装着した。狙うは、敵。


「第二ラウンド……にもならないな」


「亜裏我塗世!……じゃなかった。ありがとう、そしてご苦労様!」
……最初の文句は何だ?
ロワーの方に視線を移すと、そっと耳打ちしてくれた。どうやら俺たちが激闘している時に、Guideccaのリミックス先Remo-con一家でも何やらあったらしい。その時にFAKE TIMEに漢の仁義なりを叩き込まれたという。で――戦闘の時に『重さ』が必要な場合にリミックスモードになるが、しばらくはその反動で挨拶がその手の言葉になるという。
……何だこの設定は。というかそちらで何があったジュデッカ。
「そっちもお疲れ様、ジュデ兄」
互いに握手する兄弟。そこには確かな、一種の信頼感があった。
「ところで、ネメ兄とスパイラルは?」
「あぁ……兄貴達は――」
言いかけながらジュデッカは体を幽かに反らす。その間にロワーは拳銃を一発。背後に居た黒の兵士を一撃で仕留めた。
「くっ……」
まだ居たのか。ゆっくりと話す時間すら持てないとは……。戦場だから仕方がないとはいえ、中々堪えるものだ。
「上で応戦してる是!っら逝けや!」
リミックスモードに移行するまで一瞬。本来ならそこまで速くない筈だが、やはりSet Upの血か。飲み込みとコツの心得が早い。確かに、末弟のスパイラルも拡散波動砲の扱いをほぼ直ぐに覚えたしな……。
思索に耽る間も、俺の全身は敵の体を正確に捉えていく。一撃必殺。躊躇無し。俺たちは一通りの敵を駆逐すると、残りの兄弟達と合流するために、非常階段を駆け上がった………。


果たして二人はそこに立っていた。見覚えのある顔が一人と、見覚えの無い、不思議な武器を持った細身の男が一人。
見覚えのある顔をした男は、先端の細い、火炎放射機のような両手銃を構え――虚空に撃つ。
もう一人の男は――何をしているわけでもないようだが……?


「!!!!!!!!!」


突如として、空間に巨大な割れ目が出現した!その割れ目の中に入り込むように、銃から放たれた光線が突き刺さり、内部で爆発を起こす!
続けざまに二発、三発と空間に光線を叩き込む男。光線の入った空間の裂け目は破裂し、即座に掻き消える。
と――何もしていないもう一人の男が、腰に下げている武器のうち一つを手に取り――そして――。

「さぁ――」
―――!!!!


「――!!!!!」
空気が何重にも引き裂かれたような、断末魔にすら聞こえる絶叫が辺りに響いた。次の瞬間、耳の奥で何かが爆発したような音が聞こえた瞬間――。


音が……音が消えた。全く、耳に音が響かないのだ。それこそ、真空状況下での手拍子ほども聞こえない。
男――不思議な武器の一つである長刀を手にした男は、それを振り抜き、空に振るい――次の瞬間には鞘に納めた。


「――無に、還ろう」


男の声が、無音状態の耳に届いた瞬間――!


ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!
空一面に響く、爆発音。隠れていた隙間すら全て切りつけ縫い付け爆破して跡形もなく消し飛ばす――斬撃。
終えた男は、ようやく肩を撫で下ろし、音が戻った空間で俺達の方を眺めた。
「……っふぅ」
ビームキャノンを構えていた男も、ようやくため息を一つつき、こちらに向けて歩いていった。
……流石に、これ以上は人物の名を伏せたままでは都合が悪いだろう。何より――先の戦いの功労者に失礼だ。


「久しいな、スパイラル」


ダークスカーレットの髪をした、COREの索敵及び頭脳担当。Spiral Galaxy。先の'事件'で俺達の父親であるL.E.D.を救ったのがこの男だ。普段は軽薄そうなノリをしているが、いざ緊急事態ともなれば状況を瞬時に把握して指示を出しつつ、自らも先陣を切って動くという熱さと冷静さを兼ね備えた男――噂では若干助平らしいが、男なら誰にでも多少はありうることだ。殊更取り立てて追求することでもない。
「こちらこそ、お久し振りっすゲノムさん。先の事件以来っすね」
確かに早くもそれだけの時は経っている。