『ある気紛れな歌唄い』

僕の中で、一番描けていたと思える詩。


ある気紛れな歌唄い 全ての人に謎かけだした
「正しいことは何故正しくて いけないことは何故いけないの?」


たちまち彼は笑い者 たちまち彼は気違い扱い
全ての人が謎に対して 笑いと冷たい視線を返した


謎かけだした数日あとに 一人の幼い子供が訊いた
「正しいことって何のこと? いけないことって何のこと?」


すると愚かな子供が一人 知ったかぶりした口調で言った
「正しいことは正しいことで いけないことはいけないことさ」


納得いかずに同じこと 同じ言葉で聞き返す
するとたちまち怒り出す 謎に対して怒り出す


聞く事こそが罪なのか この質問が罪なのか
「何故」と聞いても風が吹く 「愚者」という名の強い風


やがて月日は過ぎていき 幼き子供も大人になった
幼き頃の疑問を残し 幼き頃の思いを胸に


「正しいことは何故正しくて いけないことは何故いけないか」
言った途端にその人は 縛り付けられ牢屋行き


そして処刑の時が来た 彼は疲れの色を隠して
「正しいことは何故正しくて いけないことは何故いけないか」


「彼は悪魔にそそのかされた 魔の手先だ!」と誰かは言った
その声が彼に届いた時は 首が地面に落ちた後


ある気紛れな歌唄い 彼だった首に語りかけた
「正しいことは何故正しくて いけないことは何故いけないの?」


答えた者は未だなし答える意志も未だなし
謎に対して誰もかも 目を向ける者未だなし


向けることすら許されぬ そんな謎などあるはずはない
そんな思いを歌唄い 風に重ねて唄い出す


「正しいことは何故正しくて いけないことは何故いけないの」
彼の叫びは悲しくも 未だ答えは闇の中