ギタリストと雪女 その11

(戸を力強く叩き壊す音)


――……霜月っ!?――


――!治樹さん!?どうしてここに!?――


――霜月っ!逃げるぞっ!――


――え、あ、きゃっ!――




――待てぃ…………咎人よ…………!――


――我等は貴様を許しはせぬ…………永劫にな!!――


――咎人にたぶらかされし雪人よ…………貴様も同類じゃ!――


――この山から………生きて出れると思うな!――


――魂すら…………逃がしてなるものか!――


――…………時は満ちた。皆のもの!咎人治樹ならびに雪人…………咎人霜月を粛清せよ!――



――お姉さん!?何でお姉さんが!――


――長老からのお達しだ。咎人治樹ならびに咎人霜月を殺せ、とな――


――嘘よ!どうして霜月お姉さんが咎人なのよ!あの治樹とか言う咎人にたぶらかされただけでしょう!?だったらその男だけ殺せばいいじゃないの!――


――………たぶらかされたから、だろうな――


――…………そんなのって酷い!どうしてぇ………どうしてぇっ!どうしてなのよぉっ!せっかく村に戻ってきたのに!また一緒にいられると思ったのに!…………みんなあの男が悪いんだ!瀬戸治樹!あいつがお姉さんを殺したんだ!………あの男さえいなければぁぁぁぁぁぁぁぁっ――



――(霜月がこの村に戻ってきた時点で、長老は、もう霜月を殺すつもりでいたんだろうな。霜月がこの村に戻ってくる場面を見ていれば、あの子も、その覚悟は出来ていた………いや、出来る前に長老に歯向かうこともありえたから見せなかったのか。霜月が入った部屋、それは通称'極刑室'、死刑にするための罪人が余生を過ごすための場所………。
きっと長老は今頃、胸をなで下ろしているだろうな。咎人治樹がそこから彼女を連れ出した事で、公然と殺す口実が出来たのだから)――



――…………治樹さん、どうしてここに来たのですか?――


――…………どうして、だって?――


――…………ここに来たら、貴方も殺されてしまう。それは貴方も分かっているのでしょう?――


――………あのなぁ――


――…………はい?――




――お前が好きだからに決まってんだろっ!好きで好きでしょうがないからっ!別れてっ!離れてっ!生きている限りずっと後悔するくらいならっ!お前を連れて帰って呪われている方がマシだっ!殺されてしまう方がマシだっ!――




――!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!――


――………正直、皐月には済まないと思ってる。だが、あのままだと、俺が俺じゃなくなってしまうような気がして――


――馬鹿ぁっ!――


――おうわっ!――


――どうして貴方はそういつも直情傾向型なんですか!向こう見ずで!何よりも………せめて自分を大切にしてよ!――


――…………すまん………――



――………嬉しかった………――



――…………え?――


――………来てくれて、嬉しかったの………――


――…………そうか………だが、今はそうも言ってられない事態だ………走るぞっ!――


――………ええ!――



…………どうやら昔のことを思い出していたらいつの間にか寝てしまっていたらしい。………っつ、頭が痛い………宿酔いらしいな………。
しかし、何と言うか、この夢、何か引っ掛かるんだよな………。霜月は母親の名前だし、治樹は親父。しかも記憶にある声とぴったり一致してる。それに………昨日クレン氏が話していた伝説………とはいっても酒のせいで少し曖昧だが………に状況が似ていやがる。
心霊交信とかその手のオカルトは信じないつもりだが、それにしてもこの夢の妙なリアルさは何なんだよ。
………時計を見ると午前七時。………クレン氏の声が聞こえない、という
カカカンカンカカカンカンカカカンッ!
『はいはい朝だよ朝飯だよ〜!』
………彼女に二日酔いの心配はないらしいな。そこまで元気にフライパンをお玉で叩けるとは。
………さて、食えるかは分からんが、朝食に行くか………。
俺はふらふらと立ち上がった。