ギタリストと雪女 その25


その後、Doomの面々と朝食、昨晩のサーモンパーティの片付けを行った。ヨールが面倒臭がってさぼろうとしたが、クレン氏がヨールの急所を握り潰そうと脅したため、誰よりも機敏に動いていたのには笑えた。
それにしても………。時が経つのは早いな。もう帰国日だ。
荷物の準備は出来ているので、俺はニクスに頼んで車に積んでもらうことにした。ニクスは、
『暇が出来たら、一度ここに来てみな。Coolな連中が揃っているから』
と、走書きの住所と地図が書かれたメモを、俺のポケットにねじこんだ。そのメモにはこう書かれていた。
《ライブハウス『ROTTERD@M』》
…………何だろう、非常に嫌な予感がする。行ったら身の危険を感じそうな響きだ。
「あ、ああ。暇が出来たらな」
そうは返事をしといたが…………どうしようか。


出発間際、車に乗り込もうとした俺に、クレン氏が駆けてきた。
手に、巨大な封筒を持って。
『ヤヨイちゃんから!メイ君、あんた楽譜渡しっぱなしだったでしょ!』
その言葉を言われてすぐ、俺は渡された封筒を開けた。
少し手直しされた、『Freezing atmosphere』の楽譜がそこにあった。
少し微笑みながら、俺はそれをまたしまう。出発のエンジンが、今かかった。
『じゃっ!良ければまた来てね〜』
手を振るクレン氏に、俺らは全員手を振った。
笑顔で。


「じゃあ、この場所でお別れだな」
行きと同様の乱恥騒ぎが行われたバスに揺られて数時間後、空港に着いた俺は、Doomの面々と別れの挨拶を交した。
『またいつか、一緒にバトリましょうね』
キースは相変わらずの笑顔でそう言いながら、右手を差し出した。
俺も笑顔で右手を差し出し、そして固い握手をした。
じゃあな。Doom。またやろうぜ。


飛行機の中で、ヤヨイからの封筒をまた開ける。中に入っている楽譜の変更点を探しつつ………俺は封筒の中に、小さな手紙が入っていることに気付いた。
取り出して、読んでみる。


『メイへ
貴方と出会って、私はようやく、霜月姉さんから卒業できそうです。霜月姉さんについて、教えてくれてどうもありがとうございました。
私と貴方の進む道は違うけれど、もしもまた、その道が交わることがあれば、その時は、よろしくお願いしますね。
ではでは。お見送りに行けないですいません。
P.S.この曲を収録する際には、私を呼んで下さい。
あと………姉さんのお墓の住所を、出来れば教えてください』


………違うぞ、ヤヨイ。
何よりもヤヨイに一言伝えたかったのは、俺の母親だ。俺は、それを代弁しただけに過ぎねぇよ。



もしかしたら………母親が俺をアラスカに連れてきたのかもしれねぇな。



俺に全てを知らせるために。
彼女に全てを知ってもらうために。



それが真実かどうかは分からねぇが、ただこれだけは言える。





――母さん、ありがとよ――