spiral galaxy -L.E.D. Style Spreading Particle Beam MIX-が出来るまで-Phase 4-


押し付けるように切るボタンを押して、乱雑に携帯をポケットに突っ込む。どこが丁寧なんだボケ、とかツッコンだ奴は脳天に風穴が開くから覚悟しとけよ?今のオレは、凄まじく気が立ッてッからな!
マガジンを拳銃に込め、オレはそのまま敵背後のエネルギータンクを撃ち抜いた。――誘爆!
耳をつん裂く爆音があちこちで起こる!エネルギータンク同士が爆破し合っていい具合いに連鎖!パズルゲームならこれが快感なんだが、生憎とこれは実戦だ。感じる暇もねぇ。
さってと、どれだけ敵兵が減った――!?
「――うげぇッ!?」
あ、有り得ねぇ!メモリーどんだけ使ってコピーしてやがる!?某無双でもそんなに敵兵はいねぇぞ!?防衛するために無駄に量を増やしやがったな!?
――ヤベェ。下手したらこっちが物量戦で負けるかもしれねぇ――
そんな思いがふと、オレの頭を霞めた、まさにその瞬間だった。


『待たせたなァ!』


――かな〜り聞き覚えのある、若い男の声。聞こえた方角――上空を見ると、巨大な影が一つ。それはどこか、電人のような人型をして――!
「あ、あいつ――!」
遅ぇよGENOCIDE!やっと来やがったのかよ!?――でも助かったぜ。タイミング的に。
『さぁて――敵共、失せろや!


必殺!Assult X-BUSTER!!!!!!』


「…………は?」
何か恐ろしく著作権に触れそうな必殺技名が聞こえた瞬間――!


「―――!」
眩しすぎるぜオイ!?機体から突き出たX状の羽根から発射された光が、一瞬オレの目を焼く!痛みのあまり思わず伏せたが、それでも光はロクに収まらねぇ………。
…………?
やけに静かになったな………?
爆音すらしなかったが―――!


『あ〜あ、案外呆気ねぇのな、敵も、このマシンもよぉ』
アイツの声が上から響くが、今はそれを気にする事が出来やしねぇ………。


今の一撃で――大量にいた敵が殆んど消失しやがった――!
オレはアンドロ君を見る。レーダーに映るのは――指で数えられる量程だ。


「…………ジェノ………」
てめぇ何つー危ね〜武器開発してやがんだ。COREに報告しとけよ。許可申請やんなきゃマズイだろ〜が。
『………っと』
敵を一撃で壊滅状態に追い込んだこの男は、兵器を近くの味方陣地に降ろすと、中からガトリング(設置式か?やけにデカイが)を取り出し、こっちに近付いてきた。………心なしか服のあちこちが焼けてやがる………まさか遅れたのはそういう事かい?
蠍火に何されたんだオマエ?」ガトリングを床に放り投げるジェノに、オレは呆れながら聞く。すすけた服についた砂埃を軽く手で払いながら、ジェノは溜め息をついた。
「ゼファーの奴に頼まれて、ファンタジー資料用の本を買いに行ったんだが、その隣の棚がエロ本コーナーだったわけだ」
「――で、そこに蠍火が居合わせた、と」
「ああ。しかも平積みにされてたのが『巨乳の神秘』だぜ?」
「うわぁ………」
そりゃこんがり焼かれるわけだ。翌日朝までダメージを残すほどに。
ジェノの護衛対象兼彼女である蠍火は、胸がない事を異常に気にしてやがるからな。しかもジェノの浮気には、素振りすら容赦しねぇ……。
昔よりはマシになった、とはジェノ自身が言ってるんだが、じゃあその昔の容赦の無さってどんなんなんだよ?聞いてみたいが、正直オレの精神が保てそうな気がしねぇし、ここでは聞かない方が良いだろうな。
「――だが、ま、一先ず間に合ったから良かったぜ」
そんなオレの内心を知らないかのような口調であっけらかんと笑うジェノは、そのまま胸ポケットに手をつっこみ――。
「ほい、約束のデータだ」
――目的のブツを、俺に手渡した。
「サンキュっ!」
これで、当面の手駒は揃った。後は突入するだけだ!
ジェノは、ガトリングの仕様を確かめ、異常が無いかを再三確認すると――トリガーを握り締めた!
「後方支援はオレらに任せときな!テメェはとっとと救い出してこい!」
ジェノの叫びに合わせるように、ガトリングが火を吹く。耳が痛くなるような大音量と共に、黒の集団が破壊されていく。
その包囲網に見付けた、一点の穴――!
「今です!」
アンドロの叫びが耳に届くか届かないか――!


「「「「どあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」」」


オレ、リソナ、マーズ、ファントムの四名は一気に敵陣へと雪崩込んだ――!


――――――――


「警備が居ねぇ………」
これはもしやの、敵兵おびき出し成功か?いや、そうも言ってらんねぇか。下手しなくても、黒い兵よりもヤバいのがいやがるからな。
オレは誰も周辺に居ないことを確認すると、アンドロ?による本拠地地図を取り出した。
「オレ達が今居る場所が、ここだ。この門の前。んで本拠地は大きく分かれて三つのゾーンに分かれてやがる。正面の中枢、東西の兵器製造プラントだ。距離はここからどこへも大して変わらん。んで聞きたいんだが――。
お前ら、どこをぶっ叩く?」
そこまでオレが言い終わると、リソナが制止してきた。
「待て。ここは定石では一つ一つ集団で破壊するものではないのか?お前の今の言い方だと、一人で一ヶ所、破壊するような――」
「――そのまさかだぜ?リソナ」
リソナは、信じられない、と言った表情を浮かべる。ま、確かに普通に考えりゃマトモじゃねぇようには思うだろうな。だがな――。
「考えてみな。
ここに居る面子の、攻撃範囲で一ヶ所に固まって、まともに戦えっか?」
ファントムはスピードが早い近接タイプ。だがそれは同時に集団清掃を得意とするマーズや、遠近両用のリソナの攻撃に巻き込まれやすい、と言うことを意味する。
互いの攻撃判定を意識して戦えるほど、オレらは組んで戦っているわけじゃねぇ。それに――。
「――それに相手には蠍火がいるぜ?冥だって、嘆きだっていやがる。ダブルの強さを考えりゃ、1対1で戦うべきだと、オレは思うがな」
「だが、1対1で戦うとして、逆に不利にならないのか?」
リソナの心配は最もだ。この場に居るのは、良くて12、悪くて10の、集団だ。12の最高峰と戦って、勝ち目があるわけがねぇとは誰もが考える。だがな――。
「――リソナ、お前の剣、いつから使ってねぇんだ?」
「――!?」
「――マーズ、本気出した事は?」
「無いよ。出せる状況はないしね」
「――ファントム、お前は――」
「言わなくて良い。バーサーク以来、だな」
――読み通りだな。いや、寧ろデータ通り、か。
こいつら――仕事中は全然本気出してねぇ。そりゃそうだ。こいつらが本気を出したら――壊れる。人間によって、機体が。
オレがこの作戦を選んだ理由、それは――オレだけが分かるポテンシャルと、回りが知る実力に、こいつらはかなりギャップがあるからだ。
あのデータは、完全に過去のプログラムのみを入れられている。ならば――前例に無い行動をさせれば――オレ達にも勝ち目はある。
「――――」


リソナの口が――下弦の月を形作った。


「――了解した。………だが」
ん?何だ?まだ文句あんのか?
「――スパギャラ、お前は大丈夫なのか?お前が今持つのはピースメーカーとPCのみ。元々の戦力自体も、俺達の中では最低の筈。そのお前が――」
――はは〜ん、成程な。そりゃそうだ。普通なら正気の沙汰とは思えねぇよな。10が12に歯向かうなんざ。
「――心配すんな、リソナ」
だがな――


「俺は敗けやしねぇ。既に――」


全ては俺の手の中だ。


――――門の前 by RESONATE1794――――


「…………行ったか」
あの男が理解できないのは昔からのことだが、今回のあの自信の持ちよう………どこかでコケなければ良いが。
全てはあいつの手の中、か。
情報、攪乱戦向けのあの男だからこそ吐ける台詞だ。きっと裏で何やら細工をしているのだろう。俺には真似できん。
俺に出来るのは――。


キィンッ!


「――いきなり、か」
門に何もせず入れた以上、どこかに敵は居るに決まっている。あの男はそれを分かって、俺をここに置いたんだろう。ましてや、相手は元門番のレプリカだ。そいつの特徴を考えれば――俺を当てるのは当然、か。


俺の後ろに立つ、モノクロのデータ。どことなく生前のザベルを彷彿とさせるパンクスタイルのギタリスト。間違い無い。カーボン版rage against usualだ。
(リソナ、これを渡しとく。セットしときな)
別れる前に聞いた、あの男の声が頭に響く。成程な。相手の能力を理解するためのものか。
オリジナルとコピーで差はあるが、纏う気配と構え、それは完全に一致している。
既に相手も得物をこちらに向けている。俺が構えない道理がない。
「――久しぶりに、始めから全力で行かせてもらおうか………」
俺は背中に手を遣り――。


「Reverie killer。Boostmode Over! 」


コアの場では封印していた、剣のリミッターを解き放った。


偽レイジは手元のギターを掻き鳴らす!発せられる音波は二重の螺旋になり、俺の元に怒涛の如く襲いかかる!
「くっ………」
流石は12か。開始早々ですらこの攻撃密度――!リミッターを外したからと言って、急に『発動』できるわけではない、剣の能力。くそ。ここはダメージを最小限度にするよう受け流すか――!
悪魔のような表情を浮かべ、ひたすらにギターを鳴らす偽レイジ。瞳では確実に、俺の姿を捉えている。となると………急襲は無理。ならば――!
「……破っ!」
俺は剣を素早く振り下ろした。斬撃は衝撃波を伴って偽レイジの音撃と衝突。これで少しは相殺できるか………!!
「く………ぐあぁっ!」
くっ……完全には無理か。だが………この頃合いなら!!
「破ぁあっ!」
衝撃波を展開すると同時に、俺自身も相手の方へ駆け込む!俺の読みとあの男のデータが正しければ――!
「――――!!!!!!」
レイジが持つ溜めの場所は三つ。その一番最初の溜めの時、明らかに攻撃の手が弱まる。――つまり、攻撃するなら今!
「――斬ッ!」
ザァッ!
「――くっ」
とっさに避けられたか。だが――相手の機動力と攻撃力の一部を奪うことは出来た。左足と、肩口を少し。成果としては、カウンターを防止できた、それくらいだが、それで十分。剣の方もすっかり、『発動』可能時間まで秒読みだ。あとは、ヤツの武器を待つのみ――!


偽レイジも、今がその時だと悟ったらしい。データで見た、例の構えをしている。
発される、尋常ではない量の、気迫。通常の曲ならそれだけで気圧され、体が硬化してしまうほど強烈な、あまりにも研ぎ澄まされた――殺気。
俺の額にも、じんわりと汗が滲む。正直、マトモに受けたら破壊されるのは必然。ただ――今の俺なら、相手に負ける気はしない。ましてや、今の状況なら――負ける気は全くしない。


データ相手なら――俺は、負けやしない。


「―――!!!!!!!!」
偽レイジによる、声にならない叫び。そして発される、膨大な量の攻撃データ。
右に左に、高速に、左右から同時に襲われる特殊な状況。片方だけ捌けば、もう片方の攻撃を一気に受けることになる。そうなると確実に――俺は死ぬ。かと言って、両方を同時に受けることが出来るのは、別世界にいるプレーヤーにもそうそう出来ない芸当だ。
恐らく、あの四人の中で俺以外の奴がこの場所で、こいつの相手をしたら、確実に痛み分けだろう。ここで殆んど体力を減らされ、ラストで何とか勝てる、と言った具合いか。
――そう。俺以外の奴は。


「………見切ったッ!」


ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ………!!!!!!!


螺旋階段の如く迫る攻撃を、俺はパワーMAXの状態の剣で、全て弾き返した。――PCに過負荷を与える程の動きで。
俺の剣は、『発動』状態になると俺自身の肉体の強化も同時に行う。この状態の俺は、異常にデータ容量をとるので、普段は剣を使わないでいるのだ。――それに、下手に剣を使うと………。


『リソナ、お前の武器は、これだけじゃねぇんだろ?俺だから分かるぜ。キャパは十分残ってっから、たまには本気出した方がいいぜ?』