spiral galaxy -L.E.D. Style Spreading Particle Beam MIX-が出来るまで-Phase 10.5-


L.E.D.氏は少し考えるような素振りをみせると、手元の手帳を取り出して何かを調べると、そのままオレの方に目を向けた。
「ん……、じゃあ、二週間後ぐらいにメールを送るから、その時に、かな」
そのまま、L.E.D.氏は手帳に何か書き込んでいく。恐らくこっからの予定だろうがな……。
しっかし……二週間後か。傷……完治してっかな……?


―――The sight of Dr.Love's diary―――


・随分沢山うちの病院に運ばれてきたところを見ると、相当な規模の戦闘だったらしい。その中でも最初の方に運ばれてきて、特に怪我が著しかった人とその怪我の内訳を挙げておく。
・RESONATE1794:皮膚に多数の裂傷、攻撃を受け続けたことによる打ち身、打撲の類。そして筋繊維の断裂が著しい。相当時間武器を振るったか?後日、当人と確認を取るつもり。
・TYPE MARS(G-Style):胃や膵臓、その他腹部周辺の内臓損傷、鋭利な物体による裂傷、内出血、左肩の骨折、両脚の損傷、そして搬入時に衰弱傾向。栄養サプリをとりあえず投入。幸い感染症の心配は無いので、全身麻酔中に体の洗浄を完了。後は当人の回復を待つのみ。
・eRAseRmOToRpHAntOM:背中に多数の銃創、全身に火傷、そして筋断裂多数。恐らく回収要員としても働いたのだろう。搬入時の栄養失調も今は回復。当分はリミッター解除して使えなくなった筋肉の回復に費やす必要があり。
・電人四兄弟
体に多数の銃弾。壁役として攻撃を防いでいたのか。弾の摘出と応急処置完了。
・GENOCIDE
火傷の痕多数、裂傷、所々の金属片陥没。摘出、処置終了。後は病院で他のナースを口説かないよう釘を刺しときますか。
・その他のL.E.D.曲、ANDROMEDAも、大概は裂傷、火傷、銃創のみ。処置済みで後は回復を待つ。

総合的に、一週間もあれば傷は回復すると見て良さそうだ。ただし、RESONATE1794、TYPE MARS(G-Style)、eRAseRmOToRpHAntOMの三名は二週間は確実にかかる。

P.S.今しがた通帳を確認したら、この病院に多額の金が振り込まれていることが分かった。宛名はWAR GAME氏の偽名。恐らくは入院費なのだろう。御礼の手紙を、後に送るとする。


―――三週間後――――


『親愛なるspiral galaxy殿


このメールを目にすると言う事は、体の方が回復した、と見ていいのだろうか。
こちらの方は、準備はすでに完了している。
そちらの準備ができ次第、こちらのアドレスに連絡頂きたい。
リミックス場所と日時を連絡する。


xxxxxxxxxxx.xxxxxx@bemani.jp


――L.E.D.』


「……待たせちまったな……」
メール日時は見事に一週間前。あれからL.E.D.氏は連絡を待ち続けているのだろう。
っつーか流石に二週間は無茶だった。傷の回復とリハビリを含めれば、本来なら一ヶ月だって足りねぇぐらいだ。そこを何とか頑張ったぜオレは……!
何とか元のレベルまで体を動かせるようにはしたオレは、早速L.E.D.氏と連絡を取り、リミックス場所へと向かった。
その地とは――。


草木が少なく、砂ぼこりが舞い、無機質な要塞が立ち並ぶ――戦場だった。


「ここは……?」
そもそもこんな場所がこの世界にあったとは、オレも全く知らなかった。一体ここは、何処なんだ?
その疑問に、ナップサックを背負ったL.E.D.氏は、非常に分かりやすい答えを用意していた。


「この場所は建設中の――15番街だ」


あぁ成る程。建設中ならオレも知る筈ないわあっはっはっ……じゃねぇよ!
「ちょっと待ってくださいよ!明らかに戦場のこれのどこが街なんですか!?」
「次の街のテーマは『戦場』だからさ。神がそう定めたんだよ」
「マジっすか……」
まともな神経してんのか?ここの神はよ……。
少し呆れ果てげんなりした表情を浮かべたオレに、L.E.D.氏は少し諭すように話しかけてきた。
「そんな顔しないでよ。これからやる事には寧ろこの場所が好都合なんだからさ」
「これから……って、リミックスを?」
何をさせる気なんだ?L.E.D.氏。
「そもそも、君のところにリミックス後のタイトルは届いている筈だよね?」
「あ、はい」
確か……spiral galaxy -L.E.D. Style Spreading Particle Beam MIX-だったよな。L.E.D.式拡散粒子砲――まさか!?
「お、気付いたみたいだね」
にこやかに言ったL.E.D.氏は、背中のナップサックを降ろすと、そこにてを突っ込んで――
「――そいやっ!」
――一気に引き抜いた。その腕に握られていたものは、白い布に巻かれた、オレの身長を軽く越える長さを誇る物体だった……明らかにナップサックより長くないか?それ。
L.E.D.氏は白い布で覆われた物体を、オレに持たせるように差し出した。片手で持てる……って事はそこまで重くはないわけだな。
「ん……」
両手で掴むと、中々ずっしりと来る感覚。思ったほど軽くはないが……そこまで重くもない。
中身は分かっている。だがその形が分かってはいない。
「布を外して、手に取ってみてもらえるかな?」
言われるまでもねぇ。オレは布の結び目をほどき、風に乗せるように一気に剥ぎ取った!


純白の布地が隠していたものは、漆黒とクリムゾンレッドの幾何学模様が特徴的な、先端の細い火炎放射機のような巨大な銃だった。


「おお………」
これが、拡散粒子砲………。
クレー射撃の銃のように両手で持つタイプのそれは、ちょうどオレの体に合うように作られていて、標準を定めやすい。
エネルギーカートリッジは二ヶ所から差し込めるらしく、弾の供給は安定している。カートリッジ用のベルトをつければ、長期戦も問題はねぇ。
早速、首からベルトを通して装備してみた。手触り、トリガーの位置、重さのバランス、全てがオレに丁度良い。
「あの後、君のお父さんに頼んでね、君の体のサイズを聞いたんだ。君の武器を作るのに、サイズが違うとマズイからね」
L.E.D.氏は少し誇らしげに鼻を鳴らした。実際オレに合わせたようにしか思えねぇ形状だから何とも言えねぇ。寧ろお見事としか言えねぇ。
「君から借りたプログラムリボルバーは二台とも、この銃に使わせてもらったよ。エネルギーや情報の伝達能力を引き上げたから、そこまで発射のタイムラグはないよ」
トリガーの感触、それはまさしくオレのプログラムリボルバーそのものだった。いや、それをさらに持ちやすく改造したものだった。
色々と構え標準を定めるオレの耳元に、L.E.D.氏は囁く。
「コイツをどう思う?」
「すごく……満足です」
寧ろ満足を通り越して感謝だぜ。
「良かった……」
安堵したような顔を見せたL.E.D.氏。だが、オレは理解していた。これはまだ序の口だとね。


「んで……まだやる事はあるんすよね?」


獲物を前にした狼のような声で、オレは氏に尋ねる。氏はその声を受けてすぐに頷くと、オレの予想通りの事を口にした。
「当然。まだこれは前段階だ。


spiral君。
君にはこれを使い慣らして欲しい。そのためのこの場所――戦場だ。的も弾も必要十分量しっかりと用意している。思うままに射ちまくって欲しい。
これが真の意味で思うままに動かせるようになった状態、それが僕のリミックスの終了の合図だ。


以上、健闘を祈る」
「………ラジャ」
成る程な。辺りを見回すと、黒の兵士のハリボテが居やがるわけだ。エネルギーカートリッジも――L.E.D.氏がナップサックから山のように出してきやがるし。
「的が足りなくなったらメールで連絡して欲しい。すぐに用意する。本当はここに居て見守りたいのは山々だが、流石にそろそろ帰らなければマズイ時間なんだ。済まない」
腕の時計を見ながら呟くL.E.D.氏。まぁ仕方ねぇな。
「……ラジャ。終了したときにも、メールを送信しますよ」
「助かる。では――Good Luck」


遠ざかりゆく氏の背中が、砂嵐に消えた瞬間、オレは気配探知を作動させた。
L.E.D.氏はもう元の世界に帰ったらしく映らない。その代わり――沢山の的データ。辺り一面に。
これをありったけの量壊したとき――!
「ぅおっしゃあっ!行くぜぇっ!」
オレは新たな武器を手に取り、的に標準を定め――引き金を引いた。


fin.


―――おまけ―――


「………これはどういう事ですか?」
閻魔GUILTY閣下が私に差し出したもの、それは地上では高級な、紅茶である月茶(むんちゃ)と、緑茶である菜揚茶(なやんちゃ)をそれぞれ一箱ずつ、というものだった。
「今回の任務の成功を讃え、特別給与の一つとして汝――HELL SCAPER――に与える、だそうだ。後はこれからまた忙しくなるらしいから、英気を養ってくれ、という願いをこめているそうだ」
かく言う閣下は、新品の水晶を磨いている。今回の業務に対する返礼……らしい。
しかし……この量の茶、私一人では飲めないぞ?
「他の人にあげた方が宜しいですかね?」
別に聞くことでもないが、私は口に出して言ってみた。普通に返されると思っていた私だったが、閣下の反応は――私が予想だにしないものだった。


「止めといた方がいい。その内足りなくなるぞ」


閣下は、水晶玉を見つめながら呟いていたので、もしやとは思っていたが――案の定、閣下の予言通りとなった。
虚弱体質の兵士、走馬灯の存在によって………。


fin.