『虚砂の海』

水音
さらさら
砂音


山が動く
ゆったりと
崩れながら
滑り落ちて
川になり
そして
虚砂の海に
辿り着く


手元から
さらさら
さっきまで
手の上にあった
筈なのに
さっきまで
自分のものだった
筈なのに


さらさら
凍える月は
今日も沈まない


人影に見える砂
嘗て人だった砂
次の時には
さらさら
形を失い
海へと溶ける


潮騒
さらさら
砂騒


溢れ落ちた雫は
砂粒の一つ
もう見えない
もう分からない


ここに風はない
ここに時はない
あるのは
緩やかな破滅だけ


満月が
顔を伏せた


水音
さらさら
砂音


あまりに広い
虚砂の海
あまりに小さい
自分自身


さらさら
ここには何もない
さらさら