歌唄い
歌唄いは太陽を謡った
輝き恵みを与えるものと
照りつけ災いを為すものと
歌唄いは月を謡った
静厳なる美を持つものと
漠搦たる狂気を抱くものと
歌唄いは星を謡った
幾億の無比の宝石と
幾億の無価値な我楽多と
歌唄いは国を謡った
人を加護する巨大な家と
人を拿捕する巨大な牢と
歌唄いは村を謡った
家族が暮らす理想郷と
時を止めた古時計と
歌唄いは世界を謡った
天が我らに与えたものと
天が自ら見捨てたものと
歌唄いは
様々に謡ったが
様々なものを謡ったが
人を謡いはしなかった
動物を謡いはしなかった
生物を謡いはしなかった
歌唄いは最後に謡う
全てを謡うに時は短く
全てを謡うに我は愚鈍と